プラントでは多くのポンプ(遠心ポンプ、ダイヤフラムポンプなど)や回転機器(アジテーターや脱水機など)があります。その多くではかご型誘導機が動力源として利用されています。このページではかご型誘導機の回路について紹介します。
誘導機とは
工場では遠心ポンプ、ダイヤフラムポンプから撹拌機やスクリューなどまで幅広く回転機器が活躍しています。これらの機器はほとんどで「かご型誘導機」と呼ばれるモーターを搭載しています。
かご型誘導機には以下のようなメリットがあります。
- 構造が簡単で堅牢
- 「すべり」によってトルクが生じ、回転数の厳密な制御が不要
- 幅広い大きさのモーター(1kW~100kW程度)が汎用品で手に入る
これらのメリットは直流機や同期機と比較したときのメリットです。簡単に各メリットを説明します。
構造が簡単で堅牢、3相交流電源につなぐだけで回る
まずは「構造が簡単で堅牢」についてですが、誘導機は3相磁場を生むステーター(固定子)と3相磁場を受けて回るローター(回転子)から構成されます。このステーターの部分は同期機と呼ばれるものと基本的には変わりませんが、ローター部分に大きな違いがあります。
同期機ではローター部分が永久磁石や電磁石などS極N極をもつものが3相磁場と同じ速度で回るのに対し、誘導機はアルミニウムなどの導体を円いかご状に成型させたものを3相磁場よりもやや遅い速度で回します。
そのため、誘導機の場合、回転子が同期機よりも作りが簡便なため、故障が少ないというメリットがあります。
「すべり」によってトルクが生じ、回転数の厳密な制御が不要
誘導機では同期機と異なり、「同期」する必要がありません。つまり、ステーターが生む3相磁場(例えば4極、60Hzだと1800rpm)と同じ速度でローターが回る必要がないのです。だいたい3相磁場の0.2~2%程度遅い速度で回っているようなイメージでしょう。このことは例えば「すべり1%で運転する誘導機」と表現されます。
そして誘導機についてはこの「すべり」がトルクの源泉です。低いすべり領域ではトルクとすべりは比例関係にあります。
化学工場において、ポンプや撹拌機を厳密な回転数で制御する必要がある場面はめったにありません。そのため、厳密な回転数制御が不要な誘導機がモーターとして用いられることがほとんどです。
幅広い大きさのモーター(1kW~100kW程度)が汎用品で手に入る
同期機ではものすごい小さいモーター(腕時計サイズ)かものすごい大きいモーター(発電所レベル)の2択です。そのため、低い流量のところでは1kW程度のモーターを、大型タンクの撹拌機は100kWのモーターをなどと幅広い選択肢を与えてくれる誘導機が主に用いられるのです。
【参考】同期機のいいところ
化学工場で同期機が活躍するのはあまりありませんが、同期機にももちろん誘導機にはないメリットがあります。詳しくは解説しませんが、最大のメリットは「力率をすすみも含めて制御できる」と思います。
電気の力率は様々な要因によって変動します。誘導機をいっぱいつかうと力率は遅れ方向に進みます。顧客側で進相コンデンサーが多く働くともちろん進み方向に傾きますし、電線と地上との静電容量でも進み方向に傾きます。力率が遅れすぎると同じ電力値を提供するのに多くの電流が必要になってしまいますし、力率が進みすぎると顧客側の電圧が元電圧よりも上昇してしまいます(フェランチ効果)。
電力会社はそのような力率の増減を把握し、同期機を用いて力率を遅れすぎたり進みすぎたりしないように調整しています。
誘導機のモデル回路
これまでが誘導機の紹介でした。資格でいうと電験3種レベルです。誘導機のモデル回路は電験2種レベルです。
早速ですが、誘導機のモデル回路は下のような「L字型モデル回路」を用いるのが一般的です。
このホームページでは簡略化のため、1次巻き線の抵抗とインダクタンス、2次巻き線のインダクタンスを無視する近似を行います。
誘導機のモデル回路を作ってみる(無効電流確認)
次からは私が工場で実際に測定したかご型誘導機の運転結果をもとにそのモーターのモデル回路を作成してみました(値は一部、元データから微修正しています)。
小型タンク(200L程度)に低粘度液体、高粘度液体を入れ、インバーター付きモーターを回したときの電流、電圧、電力値を測定しました。から回しのデータもとっています。インバーターで15Hzになるようにモーターを回しました。結果が下の表です。
電圧(V) | 電流(A) | 電力値(W) | ||
条件1 | から回し | 110 | 2.475 | 132 |
条件2 | 低粘土液体 | 110 | 2.55 | 181 |
条件3 | 高粘度液体 | 110 | 2.505 | 148 |
まずは、上の3条件(から回し、低粘土液体、高粘度液体)で無効電流がほとんど変わらないことを確認しましょう。条件1では動力値が132Wであることから、動力値=√3×電圧×電流×力率であるので、力率=132/(√3×110×2.475)=0.279です。つまり有効電流は1.65×0.279=0.693となり、無効電流は$\sqrt{2.475^2-0.693^2}=2.38$です。ほかの条件2と条件3も同様に無効電流を求めると。以下の表のようになります。
電力値(W) | 無効電流 | ||
条件1 | から回し | 132 | 2.38 |
条件2 | 低粘土液体 | 181 | 2.37 |
条件3 | 高粘度液体 | 148 | 2.38 |
負荷抵抗の確認
条件 | から回し |
極数[pole] | 4 |
インバーター周波数/電源周波数[Hz] | 15/60 |
電圧[W] | 110 |
電流値[A] | 72 |
回転数[rpm] | 436.5 |
さらに、から回しの時の動力値132[W]を用いて、巻き線抵抗と負荷抵抗の値を調べてみましょう。
まずはすべり値の確認をします。正確に測定した回転数が436.5rpmであったことと、地区の電源周波数が60Hz、インバータで周波数を15Hzに絞っていたことから、同期速度は$120*15/4=450\textrm{rpm}$です。つまり、回転数436.5rpmのすべり値sは$s=1-436.5/450=0.03(3\%)$と計算できます。
さらに、1次巻き線抵抗と1次、2次巻き線インダクタンスを$0[\Omega]$と近似した場合、入力電力Pは$P=3sE^2/r_2=sV^2/r_2$($E$は相間電圧、$V$は線間電圧)であることから、$r_2=sV^2/P=0.03\times110^2/132=2.75[\Omega]$となります。
モデル回路を作ることで、から動力132[W]は負荷抵抗89[Ω]から生み出されていることがわかります。また、無効電流が有効電流よりも大きく、かなり力率が低いことがわかります。これはインバーターで15Hzまで出力を絞っており、モーター本来の運転(定格運転)状態から離れたところで運転しており、効率が悪化しているためと考えられます。
まとめ
工場で簡単に得られる情報は電圧[V]、電流[A]、動力[W]であるため、今回無視した1次巻き線の抵抗や、1次、2次巻き線インダクタンスは簡単には求めることは難しいのではないかと思います。しかし、これらを無視すると、遠心ポンプなどで使われるかご型誘導機の簡易的なモデル回路をから動力などから作成することができました。私も複数の条件で電流値、動力値をはかり、無効電流がほぼ一定であったことを確認したときは驚きました。皆さんも機会があればモーターの電気的な回路を一度考えてみてはいかがでしょうか。